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今ふたたびの絵画へ

「今日」を画で残したり、文字で残したり。
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静物

本棚(朝)

本棚(朝)_20230515
(ガッシュ)

本職は古書店主でもあった作家の出久根達郎さんによると、
昔の東海道線の展望車(汽車の最後尾にあったガラス窓の大きな客車)のドアの両側には
大きな本棚があったそうだ。
そこにどんな本が並べてあったか、泉鏡花が書き残しているという。
菊池寛の小説「啓吉物語」などの小説もあったが、
スタンダールの恋愛論、国民の歴史など、お堅い本も多かったらしい。
東京から大阪まで、今より何倍も時間のかかった時代に
ヒマつぶしの本は必要ではあったが、多くの乗客は皆講談本を開いていたそうだ。

私の初めての海外への旅はまずシベリア鉄道からで、
乗りっぱなしで一週間もかかった。
そのため、やはりひまつぶしにと、文庫本を何冊か持って行った。
その中には、「これから世界を観るのだ」との気負いもあって、
「世界の歴史」も持って行っていた。
そのあたり、大正時代の展望車の本棚に近いものがある。
ところが初めての外国、そして外国人との交友の日々に、退屈するはずがなく、
ギリシアに出た時には、本の栞はまだ原始時代に挟まっていた。

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静物

写真立て

写真立て-03_20230504
(ガッシュ)

父が亡くなって丸2年が過ぎて、三回忌の法要の日。
兄弟が集まり、過去・現在、そして明日のことを話し、
家族、友人の話題と、話は尽きない。
奈良で三人一緒に過ごした日々は、今思えばあっという間だったのに
兄弟にとっては人生の半分を占めているかのような掛け替えのなさだ。
家族で暮らした日々は失われてなお身に迫って来る。

写真立て-01_20230507

本棚を何枚か描いていて、その上に立ててある写真額、
その中の写真には父と母が仲良く収まっている。
生前は滅多になかった構図だ。
見ているうちにちょっと描いてみるかという気になって、気がつけば3枚。
やっぱり最初の一枚が良さそうだ。

当時ニューヨークにいた弟から、「結婚式を挙げるので来てくれないか」
と電話があったのはその2ヶ月ほど前のことだったと思う。
せっかくだからと、他の兄弟二人も一緒に式を挙げてもらうことにした。
簡単に考えてそうしたのは、若さゆえの軽薄だったけれど、
おかげでその年に亡くなった母が、
兄弟の結婚式を全て同時に見ることができたのは幸いというしかない。
しかし渡米準備は待っていて出来上がって来るものではなく、
のんびりした性格のわれら兄弟のことで、飛行機のチケットの取り方もよくわからない。
友人ボリウッドマンの奥さんが見かねて手を差し伸べ、
親兄弟、なんとかニューヨークへたどり着く、といった有り様だった。
写真はその時に、確かマジソンスクエアガーデンあたりで撮ったものだったと思う。

写真立て-02_20230507

ただの記念写真なのに、こんな小さな枠に自分の両親がきっちり収まっている、
そのことが、今ではやたら切なく見える。
両親のことを思い出していたら、ピエトロ・ジェルミ監督の「鉄道員」の音楽を思い出した。
ジェルミ監督は、ゴッホを演じたカーク・ダグラスによく似ている。

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この映画・音

「わたしの叔父さん」(2019年、デンマーク)

わたしの叔父さん_20230514
(ガッシュ)

フラレ・ピーダセン:監督・脚本・撮影・編集
介護と言わないまでも、介助が必要な年老いた身内と共に生きる人に
寄り添うような共感を持って描いたのが、まだ40代になったばかりの若い監督とは驚く。
これはデンマークの片田舎で牧場を営むクリス(イェデ・スナゴー)と
叔父(ペーダ・ハンセン・テューセン)の静かな物語。

クリスは早くに両親を亡くして叔父に引き取られて以来、二人暮らしだ。
叔父はクリスの介助なしには日常生活もおぼつかない。
年齢、健康状態とも酪農を引退する潮時にある。
映画は初めのうち、27歳のクリスが獣医への道を諦め、
牛の世話と叔父の介助に明け暮れる日々を繰り返し見せる。
ここでは彼女は「被害者」的に見えるかもしれない。
人は外部から見ていると、本人の幸福がどこから得られるのか、わからないものだ。
叔父への「犠牲的な献身」に見える生活が、
本人にとっては逆に生きる支えと喜びになっていることがある。
似た関係を、実際に私も身近で見ている。
周囲の人々がクリスに寄せる同情と思いやりは、これもまた間違ってはいない。
誰も悪くはないのだけれど、一見不幸に見えるところに
実は小さくとも存在する幸福を、この映画は丁寧に描いている。

映画を観ていて、クリスの動物を扱う手際の良さにちょっと驚いていたら、
演じるイェデ・スナゴーは元獣医なのだそう。
また、叔父役のペーダ・ハンセン・テューセンは、イェデ・スナゴーの実の叔父であり、
現役の酪農家である。
ドラマの舞台になっているのは、彼の牧場である。
監督はこの二人を見て、ストーリーを思いついたのではないか。
それにしてもさすがは北欧の国デンマーク、
田舎の酪農家の室内ながら、インテリアやテーブルウエアのデザインが秀逸だ。
繰り返しになるけれど、ロケ地は叔父役のテューセンが実際に営んでいる牧場である。
同じく田舎の病院の廊下に置いてある椅子が、フリッツハンセンのセブンチェアだ。
製造国では安く買えるのだろうか。
作品中、ただ一度だけ流れる音楽が、
梅林茂の「夢二のテーマ」にとてもよく似ていた。

叔父さんはクリスが初めてデートに行く時、
髪を整えておしゃれをして見せるシーンで「どう?」と聞かれる。
いつも仏頂面をしている叔父さんが、「きれいだよ」と、
ただ一度の笑顔を見せるのである。
失礼ながら決して共感を呼ぶ人相とはいえない叔父さん役の
ペーダ・ハンセン・テューセンのその笑顔が忘れられない。

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この本・写真集

「青インクの東京地図」 安西水丸著

青インクの東京地図_20230513
(ガッシュ)

安西水丸さんの本はほぼ全て一度は買っている(未読の本あり)。
一読して手放したものもあるけれど、読み返しそうな本は大事に持っている。
なのに一度も表紙を描いていなかったので、今日たまたま開いたこの本を描いた。
1987年に出版され、その後文庫化もされたが、今はどちらも絶版になっている。

この本は安西水丸さんが東京を散歩し、思い浮かんだことを徒然に語る随筆集だ。
こういう企画は無数にあると思うけれど、趣味人で美味しい料理と酒に目がなく、
日本史、特に戦国史に造詣の深い安西さんのペンにかかると俄然面白くなる。
それに文章の展開が独特だ。
歩き始めると過去の実体験の記憶が交錯し、小説のような文章に引き込まれる。
たとえば、京成線青砥駅付近の散策から
虚実どちらともつかない、「京成サブ」という与太者の話になると、
まるで60年代の日活映画のような展開になる。
ちなみに「京成サブ」とは、ガロに連載していたつげ忠男の漫画に出てくるキャラクターで、
水丸さんは実在の人物とふんでいる。

また巣鴨を歩いて、本妙寺にある剣豪千葉周作の墓の記述にあたるとき、
「千葉周作」とせずに「千葉周作成政(なりまさ)」と書くあたり、
歴史マニアである水丸さんらしさがうかがえる。

赤坂育ちで青山に事務所を構える都会人の水丸さんが
私の住む都下ローカル沿線の、東急池上線を書いているのは少し意外だ。
そこでは訪ねて行った友人が「昔、阪神タイガース最高の選手と謳われていた
吉田義男(当時阪神タイガースの監督)に憧れていた」という記述がある。

ところで私が奈良に住んでいた頃、近所に住む弟の同級生のお母さんが昔、
結婚相手として二人の男性が候補になっていたと話していたことを思い出した。
選んだ相手は(エリートだろう)伊藤忠商事の社員でその時のお父さん、
袖にした相手が阪神の吉田義男選手だった。
その後、不景気になった時に伊藤忠社員だったお父さんはリストラにあって失業した。
間をおかず離婚して母親と子供は出て行き、団地にはお父さんが一人残された。
夕方、公園のベンチにひとりで座り、隣に座っていた小学生の私に、
「良い脚しているなぁ、ぼく」と声かけてきたことを覚えている。
絵に描いたようなお父さんの孤独な横顔と、
出て行ったお母さんの「こんなことなら吉田を選んでおけばよかった」とのシビアな発言が
今も印象に残っている。

どの回も一編のドラマが目に浮かぶようで、読む者の気持ちを掴んで離さない。
友人の作家村上春樹氏が一目置いていたというのも「なるほど」、と思うのである。

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静物

飾り棚と写真立て

飾り棚と写真立て_20230506
(ガッシュ)

気に入ったオブジェや写真を飾るためのガラス戸付きの飾り棚。
元は柱時計だ。
古い時計は壊れると商品にならないらしく、
これも壊れていたのを1000円くらいでもらってきたものだ。
機械が壊れているだけでなく、木製のケースの飾りも所々欠けていた。
時計上部の飾りがよくなかったので内部機械とともに取っ払い、
上下逆さまにして棚板をつけるとオリジナルのディスプレイケースになった。
壊れた時計はその時、二つ買った。
もう一つはガラスも割れていたので、油彩の画用液を並べる棚として使っている。

ガラスの中に見えているのは今は亡き天才イラストレーター河村要介さんの
フィギュア付きの香水瓶。
フォルムは型取りして均一でも、顔や水着の絵付けは要介さんの手によるもので
一体ごとに全て微妙に違っている。
使いもしない女性用の香水、その頃の15,000円は高かった。
青山スパイラルのショップへ何度も足を運び、意を決して買ったものだ。

その左は、今惚れ込んでいる張り子作家、豊永盛人さんのオブジェ「大仏殿」で
紙の大仏殿の中に焼き物の大仏(小仏?)が入っている。
東京の個展に間に合わず、会場や宿で作り続けていたのを目の前で見て
どうしても欲しくなってその場で注文し、後日取りに行ったのだ。
ちなみに張り子ではない。

その下に父母の写真。
手前左はセガレに作った木製のクラシックカー(布で幌もつけてある)、
今はもう見向きもしないので、ここに陳列している。
右はこれも今惚れ込んでいる小泊良さんの椀。
こういうコレクションを並べて悦に入っている喜び具合が、
画から伝われば嬉しい。

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静物

本棚(夜)

本棚_20230503
(ガッシュ)

東京に来たばかりの頃、原宿表参道の真ん中に
手軽な値段で和物のアンティーク家具を買える店があった。
友人知人は古いものに全く興味がなく、いつも自分一人で出かけては
ぽつぽつと家具を揃えていった。
買ったのは丸いぼんぼりガラスのテーブルライトと、この書架など。
これだけが今も手元に残っている。

昔はこういうのをひとつ二つ茶の間に置いて、
持っている本はこの中に全部収まったのだろう。
本を大事にしたことと、あまりものを持たなかった、というより
持てなかった暮らしぶりがうかがえる。
今私の持っている本はとてもじゃないけれどこんなのが10あっても収まらない。
中に入れているのは貴重というよりも、
まず手放さないつもりの好きな本、面白かった本をここに並べている。
なんだか心落ち着く書架風景だ。
実際、人生にこれだけあれば十分楽しめると思う。

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