「新宿三丁目」
(6F、パステル)
街の中に建物など古いものが残っているのは、地方より意外に東京の方が多い。
それでもデパートなど商業ビルとなるとやはり新しいものが求められるのか
ほとんどが建て直されたり化粧直しされたりして往時の面影を見つけるのも難しくなっていたりする。
大阪では心斎橋大丸や高島屋くらいだろうか、歴史を感じる建物は美しい。
大戦時の大阪空襲で、辺り一帯焼け野原の更地と化した記録写真を見ると
高島屋の建物だけが爆撃を免れて奇跡的に焼け残って建っている。
ちなみに高島屋は東京の人は日本橋が本店だと思っている人が多いが、大阪難波が本店だ。
梅田や三宮の阪急は震災を機に建て直されてしまった。
梅田阪急はミラノ駅を思わせる壮大な吹き抜けがあってよく待ち合わせに利用したが
今後あのような空間利用は経済コストの意味からもあり得ないだろう。
東京は創建当時の建物を使っているところが多いのだが、
外壁をパネルで被われたりして外観はすっかり当時の面影をなくしている。
日本橋三越と高島屋、それにこの伊勢丹が貴重な歴史の顔を持って今も営業している。
この画の新宿三丁目付近には面白い場所が多い。
靖国通り沿いには画材の世界堂本店があり、先日惜しくも閉店したマニアックな本屋ジュンク堂もあった。
酒のあまり飲めない私には何が面白いのかわからないが
以前在籍したデザイン事務所の社長はじめ酒飲みたちは、
男女を問わずこのあたりのオカマバーによく通っていた。
裏通りを回れば寄席の末広亭があり、そのすぐそばには居酒屋の「どん底」がある。
ドラマのロケなどにもよく使われていて、私が一番印象に残っているのは
沢木耕太郎の「深夜特急」のTVドラマで、大沢たかお演じる沢木がユーラシア横断の旅に出るにあたって
友人から壮行会を開いてもらったのが「どん底」だった。
チロルの山小屋を思わせるレトロな店内は「酒場」という言葉がふさわしく、
今の時代にあっては得難い雰囲気がある。
新宿では他に、歌舞伎町にあった古い名曲喫茶も地上げによってか、数年前に取り壊されてしまった。
このあたりの時代を生き延びた街の風景も
明日には目の前から消えて無くなってしまうかもしれない。