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この言葉

出会った本 2013(小泉淳作「随想」)

2013年のいい本
今年はいい本、楽しい本に多く出会えた年だった。
ずいぶん考えさせられる本も多かったが、
上の写真に写っている本はみな良かった。
ただし、古書店で買うことが多いので古い本が多く、話題性は低い。
ほかに買っただけでまだ読んでいない本もけっこうあり、
それはおそらくかなりいい本だと自分では予想しているのだけれど、
それは来る年の楽しみとしておく。
いっぽうたくさんの本の扉を叩いたということは、
その間、画筆が動かなかったということでもある。。

絵描きの文章の本は、ときに姿勢を正すほどいい本であることがある。
ものをよく見る人の言葉には、
それをよく見てあふれ出てきた実感というものがこもっている。
今年は中でも小泉淳作さんの「随想」がとてもよかった。
クリスマスの日に私から、そのなかでとくに心に残った画家の言葉をお届けします。
小泉淳作 随想

小泉さんは京都建長寺、建仁寺や奈良東大寺本堂のふすま絵を
70歳、あるいは80歳過ぎてから一人で完成させた画家として知られている。
 どうでもいい話だけれど、父上は政治家(小泉元首相とは無関係)、
 ゴジラ映画などでおなじみの東宝の二枚目俳優、小泉博は実弟である。
私は日経新聞連載時、「私の履歴書」を毎日楽しみにしていた。
慶應義塾から画家を志して鏑木清方に師事、
芸大日本画科に入り直して卒業後はデザイナーを経て陶芸界に入った。
歳をとってから日本画家として光の当たった苦労人である点は、やなせたかしと似ている。
一般に私は日本画家の本を手に取る機会が少ないので、これは今年の大きな幸運だった。
日本画というのは技術的に世界で最も難しい絵画だと思う。
その最も難しい絵画が、必ずしも最も感動を与えるわけではないという矛盾がある。
小泉画伯はそのことをよくわかった上で、日本画にとどまらず、
美術全般にわたる苦言、感動、感想、いわゆる「随想」をめぐらせている。
またまた長くなりそうだけれど、一期一会だと思って一通り読んでいただければ
響く人にはかなりの深さまで染み入るのではないかと思う。


「絵描きはその第一歩から、自分で考え、自分で歩いて行かねばならない。
 千年も以前の人たちが遺したすばらしい仕事を、
 現代の作家たちが抜きんでるということができないという事実が
 それを最も証明している」

「絵画作品に現れる個性というものは、すなわち作者自身であって、
 無理に画面の中に特徴を表そうとしても、それは個性ではなくて単なる作為に他ならない」
「本当のことを言ってしまえば、個性などというちっぽけな考えは捨ててしまいたいと思うのだ。
 個性がどうだとかいうような考えは、一人の人間から一歩も出ない発想である」

「人間が自分自身の中にある憧憬や尊崇の心に忠実であり、
 しかも感動を表現できる資質と技術を備えてさえいれば、
 個性などというものは自然にその画面ににじみ出てくるものではないか」

そして
「絵を描くことが好きで、その行為に生き甲斐を感じて生きていくことが出来て、
 そのことによってその人の人生が豊かで実りの多いものなら、
 それで十分目的を果たしていると言えるではないか。」
「自分に正直に生きるということに尽きる」

小泉さんは日本画家でありながら、洋画を見るのがすごく好きだと書いておられる。
「(ドイツ表現派の画家ホルスト・ヤンセンの画を見て)
 鉛筆一本でぼろぼろの靴を片方描いているが、それが奇妙に美しいのである。
 それは見る人にこんな美の場があったのかと不思議な感動を与えてくれるのだ。
 そこが芸術というものの持つ、底知れない奥深さであって、
 それだからこそ我々を無限にひきつけてくれる世界なのだろう」

ご自分のいる日本画界についてはとくに厳しい見方をしている。

「こういう作品(上のホルスト・ヤンセンの作品など)を通して、
 真実味のある存在感に接したりすると、
 日本画界にゾロゾロ出現する美人画なるものや、舞妓などの絵がいかにも空々しく、
 こんなものがこのような芸術の範疇の中で同列に論ぜられるとは
 到底思えないのではないか」

「作家は日常いつも透明な心で身の回りのものを見つめて感動を受けていなければ、
 マンネリに陥ってしまうものだが、これが当たり前のことでも大変に難しい」

時間の大切さについて書かれている言葉はとくに忘れがたい。

「私ごとき凡庸なものは、(中略)十年も続ければやっと
 あの頃より少しはましになったかなと思うようなものなのである。
 その間の十年を無為に過ごしたりしたならば何をかいわんやで、
 もはや取り返しはつかないのだ。
 そういう意味から言っても作家は、己れの持ち時間を後生大切にしなければならない」

「芸術家はやりたくないことはやらないのが本当だと考えている人達がかなりいるようだが
 私はそれは間違っていると思う。
 そんな身勝手なご都合のいい考えでは何一つ得るものがなく、
 一生怠け者で終わってしまうのが落ちではないか。
 油絵の場合はいきなりキャンバスの上に
 自分の気持ちをぶつけるというようなことができるのかもしれないが、
 果たしてそれで質の高い仕事ができるかどうかは疑問である。
 日本画であろうと洋画であろうと本質的に変わるものではない」


ほかにも絵筆を持つ身に(少々耳が痛い)金言があふれている、たいへん読み応えのある本だ。
ただし、あちこちに寄稿した文章で、
しかも晩年の10年を間に挟んで刊行された2冊の随筆をまとめたものなので、内容に重複がある。

年末も押しせまった日になってしまって恐縮だけれど、
今年一番いい本でした。

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